会議日
開催概要
- 開催日:令和2年9月8日
- 議題
- 懲戒権に関する規定の見直しについての検討(三読)
- 嫡出否認制度の見直し(3)―その他の見直し―(二読)
- 嫡出推定制度に関する更なる課題
- 部会長:大村敦志(学習院大学法科大学院教授)
- 開催形式:会場参加とWeb参加を併用して開催
第10回のポイント
第10回会議では、懲戒権規定の見直しに加え、親権の位置付けそのものを見直す議論が深められました。
特に、親権を親の支配的な権利ではなく、子どもの利益のために行使される責任・義務として明確化する方向性について意見が交わされ、民法820条に「子どもの人格尊重」や体罰禁止をどのように位置付けるかが主要な論点となりました。
また、木村敦子幹事からはドイツ法が紹介され、親権を「配慮(ケア)」へ転換し、「義務を負い、権利を有する」と規定する考え方や、子どもの人格尊重・体罰禁止を民法に明記した経緯が説明され、日本法の見直しにおける重要な比較法上の参考例となりました。
主な論点
- 民法上の懲戒権規定の削除
- 体罰禁止規定の新設
- 「指示及び指導」規定の是非
- 子どもの人格尊重規定の新設
- 精神的侵害・屈辱的行為の位置付け
- 親の監護・教育権限の明確化
- 中間試案における複数案提示の必要性
- 親権を「親の権利」から「子どもの利益のための責任・義務」と位置付ける考え方
- 子どもの人格尊重を民法820条へ明記することの是非
- ドイツ法を参考とした親権概念の見直し
主な委員の発言
発言見出しは人物ページへリンクしています。要旨は短い整理です。全文は一次資料(議事録PDF)を参照してください。
この回の発言者(人物)
磯谷文明委員
所属・肩書
弁護士(東京弁護士会所属)
発言要旨
長年児童虐待問題に携わってきた立場から、民法に懲戒権規定が存在すること自体が「一定の体罰は許される」との誤解を生みやすかったと指摘しました。
今回の見直しでは懲戒権規定を削除することに大きな意義があると評価した上で、「指示及び指導」を新たに規定する乙案については、監護・教育規定との違いが分かりにくく、新たな誤解を生む可能性があるとして、体罰禁止のみを規定する丙案を支持しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 懲戒権規定の削除を支持
- 丙案を支持
- 体罰禁止の明文化を重視
棚村政行委員
所属・肩書
早稲田大学教授
発言要旨
「指示及び指導」と表現を改めても、従来の懲戒権と同様に親が自己の行為を正当化する余地が残るのではないかとの懸念を示しました。
その上で、子どもの人格尊重と体罰禁止を民法上明確に位置付けることには教育的・啓発的な意義があり、社会全体へ強いメッセージを発することが重要であると述べました。
さらに、親権は親が子どもを支配・コントロールするための権利ではなく、子どもの利益のために適切な養育を行う責務であるとの考え方を示し、民法に子どもの人格尊重や体罰禁止を明記することは、その理念を社会へ示す重要な意味があると述べました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 丙案を支持
- 子どもの人格尊重を重視
- 教育的・啓発的効果を重視
山根香織委員
所属・肩書
主婦連合会常任幹事
発言要旨
体罰禁止を明文化することに賛成するとともに、「何ができるか」を規定するよりも、「何をしてはならないか」を明確に示す方が適切であると述べました。
親が安心して子育てできる環境づくりは法文だけでなく、国による周知・支援を通じて実現すべきとの考えも示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 丙案を支持
- 禁止規定を重視
- 社会的支援の充実を重視
井上久美枝委員
所属・肩書
日本労働組合総連合会 総合政策推進局長
発言要旨
子どもの最善の利益の観点から懲戒権規定の廃止を支持し、民法においても体罰禁止を明確に規定すべきと述べました。
また、「指示」や「指導」という用語については、命令的・強制的な意味合いに受け取られるおそれがあり、解釈上の混乱を招く可能性があるとの懸念を示しました。
また、親権は子どもの最善の利益のために行使されるべきものであり、その基本理念を民法上も明確に示す必要があると述べました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 懲戒権規定の削除を支持
- 丙案を支持
- 子どもの人権を重視
木村敦子幹事
所属・肩書
京都大学大学院法学研究科教授
発言要旨
ドイツ法における親権制度の変遷を紹介し、親権を親の支配的権利として捉える考え方から、「子への配慮(ケア)」を中心とする制度へ転換してきた経緯を説明しました。
また、ドイツでは親権を「義務を負い、権利を有する」と規定し、子どもの福祉や人格尊重を親権行使の基本理念として位置付けるとともに、「暴力によらず教育を受ける子どもの権利」や体罰禁止を民法上明文化したことを紹介し、日本法の検討においても重要な比較法上の示唆になると説明しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 親権を責任・義務として位置付ける考え方を紹介
- ドイツ法を比較法として提示
- 子どもの人格尊重を重視
大森啓子幹事
所属・肩書
弁護士(第二東京弁護士会所属)
発言要旨
懲戒権規定を削除した上で体罰を禁止することには賛成すると述べました。
一方で、体罰には該当しないものの、子どもの人格を傷つける行為についても規律の対象とする必要があると指摘し、ドイツ法の「精神的侵害その他屈辱的な措置」のような考え方も参考にしながら、適切な文言を引き続き検討すべきとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 体罰禁止を支持
- 子どもの人格侵害への対応を重視
- 禁止規定の充実を支持
窪田充見委員
所属・肩書
神戸大学大学院法学研究科教授
発言要旨
懲戒権規定を削除する方向性には理解を示しつつも、中間試案の段階では「指示及び指導」を規定する乙案も選択肢として残すことが適当ではないかと述べました。
親には禁止事項だけでなく、監護・教育のために何ができるのかという積極的な側面を示すことにも意味があり、その点について国民の意見を広く聴くべきとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 中間試案では乙案も維持すべき
- 親の監護・教育権限の明確化を重視
- 国民的議論を重視
水野紀子委員
所属・肩書
白鷗大学大学院法務研究科教授
発言要旨
窪田委員と同様に、中間試案の段階では乙案を残して国民から幅広く意見を求めることが望ましいとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 中間試案での複数案提示を支持
- 幅広い意見聴取を重視
中田裕康委員
所属・肩書
早稲田大学大学院法務研究科教授
発言要旨
現時点で乙案を完全に取り下げるのではなく、中間試案では丙案と併せて提示する、あるいは注記として残す方法も考えられると述べました。
親が何をすることができるのかという積極的な規定を置くことにも一定の意味があり、その是非について国民の意見を踏まえて最終判断すべきとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 中間試案で乙案を維持
- 積極規定の必要性を重視
- 段階的な制度設計を支持
sourcesから追記した発言
運営の評価ラベルは付けません。
中野孝浩幹事
所属・肩書
厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課長
発言要旨
厚生労働省家庭福祉課長の中野でございます。私の方からは,参考資料10-1の(1),(2),(3)それから(4),横のものですね,この四つを用いまして,当省にて昨年度開催いたしました検討会,体罰等によらない子育ての推進に関する検討会でございますが,その取りまとめの内容について御説明を申し上げたいと思います。
(PDF p.4)
垣内秀介幹事
所属・肩書
東京大学大学院法学政治学研究科教授
発言要旨
基本的には先ほど申し上げたことの繰返しということになるのかなと思いますけれども,訴訟物という点で考えますと,基本的には生物学上の父子関係があるかないかということが審理対象であって,それは幼少期に母が代理人として提訴した場合も,3の乙案に従って子が一定の年齢に達してから提起する場合であっても,審理対象そのものは全く同じであるという前提で考えたときに,それでもなおその子によって再訴することを棄却判決確定後に認める必要があるかどうかというと,そこはこの乙案で認める否認権の趣旨をどう考えるかということによっては,もしかするとあり得るのかもしれませんけれども,基本…
(PDF p.39)
手嶋あさみ委員
所属・肩書
最高裁判所事務総局家庭局長
発言要旨
今日いろいろ御議論を伺っておりまして,やはり制度に対してどういうことを期待するのか,制度趣旨,目的が現行の制度とは大分違うものも想定されているように感じましたし,その最たるものとして,子が自分で判断できるようになってからの否認権というものをどういうふうに考えるのかといところがあるように思われます。この資料の,例えばこの10ページのところに乙案の根拠等という記載があり,その3行目辺りに,子には本当の父親が誰かをはっきりさせたいという思いがあり,それを公的に明らかにできるのはうんぬんという記載があるわけですけれども,そこから始まりますと,同じようなシチュエーションはやはり特別養子の場合にもあると。
(PDF p.44)
第10回の特徴
第10回では、懲戒権規定の見直しについて三読審議が行われ、民法上の懲戒権規定を削除する方向性について大きな異論は示されませんでした。その上で、「指示及び指導」を規定する乙案と、体罰禁止のみを明記する丙案のどちらを中間試案に盛り込むかが主要な論点となりました。
議論では、子どもの人格尊重や体罰禁止を明確に打ち出す必要性について広く一致が見られた一方、親の監護・教育に関する積極的な規定を残すべきかについて意見が分かれました。その結果、部会長は丙案が多数意見であると整理しつつも、国民から幅広く意見を求めるため、中間試案では乙案も選択肢として残す方向で議論を取りまとめました。
また、単に懲戒権規定を削除するかどうかではなく、親権そのものをどのような権利・責任として位置付けるかが大きなテーマとなりました。親権を親の支配的な権利ではなく、子どもの利益のために行使される責任・義務と捉える考え方が共有され、ドイツ法における「配慮権」への転換や「義務を負い、権利を有する」という規定も紹介されました。