法制審議会 民法(親子法制)部会 第9回(令和2年7月21日)

会議日

目次

開催概要

  • 開催日:令和2年7月21日
  • 議題
  • 嫡出否認制度の見直し(1)―否認権者に関する規律の見直し―(二読)
  • 嫡出否認制度の見直し(2)―否認権の行使期間に関する規律の見直し―(二読)
  • 部会長:大村敦志(学習院大学法科大学院教授)
  • 開催形式:会場参加とWeb参加を併用して開催

第9回のポイント

第9回会議では、嫡出否認制度の見直しについて二読審議が行われ、誰に嫡出否認権を認めるべきか、またその権利をいつまで行使できるようにするかが中心的な論点となりました。特に、子自身や母に否認権を認めるかどうか、生物学上の父に権利を付与するかどうかについて活発な議論が行われました。

委員からは、無戸籍問題の解消や子どもの利益を重視する観点から制度の見直しを支持する意見が多く示される一方で、父子関係の法的安定性や、長年築かれた親子関係への影響をどのように考えるべきかについて慎重な検討を求める意見も示されました。

また、母に固有の嫡出否認権を認めることについては、男女平等の観点から母にも独自の権利を認めるべきとの意見が示される一方で、母自身の利益と子どもの利益が一致しない場合には、良好な父子関係が維持されていても母の意思で訴えを提起できることになるとの懸念も示され、制度趣旨そのものが大きな論点となりました。

主な論点

  • 子の嫡出否認権を認めるべきか
  • 母に固有の嫡出否認権を認めるべきか
  • 親権を持たない母の関与の在り方
  • 生物学上の父の否認権
  • 否認権の行使期間
  • 子どもの利益と法的安定性の調和
  • 無戸籍問題への対応

主な委員の発言

発言見出しは人物ページへリンクしています。要旨は短い整理です。全文は一次資料(議事録PDF)を参照してください。

この回の発言者(人物)

棚村政行委員

所属・肩書

早稲田大学教授

発言要旨

子どもに嫡出否認権を認めることには理解を示しつつ、母に固有の否認権を認める場合には、その法的根拠をより明確に整理する必要があると指摘しました。

また、母が子の利益を代理して権利を行使する場合と、母自身の利益に基づいて権利を行使する場合との違いや、海外法制との比較も踏まえて慎重に検討すべきとの考えを示しました。さらに、親権の有無だけで母の法的立場を区別することには疑問を呈しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 子の利益を重視
  • 母の否認権の根拠整理を重視
  • 比較法的検討を重視
  • 慎重な制度設計を支持

山根香織委員

所属・肩書

主婦連合会常任幹事

発言要旨

父には否認権が認められている一方で、母には固有の権利が認められない現行制度は男女平等の観点からも課題があると指摘し、母を独立した権利主体として位置付ける必要性を訴えました。

また、母は単なる子の代理人ではなく、自らも権利主体として父子関係に関する訴えを提起できるようにする方が制度として分かりやすいと述べました。

母に固有の否認権を認めることは、今回の親子法制改正における重要な前進になるとの認識を示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 母の固有の否認権を支持
  • 制度の分かりやすさを重視
  • 改正の積極的意義を評価

磯谷文明委員

所属・肩書

弁護士(東京弁護士会所属)

発言要旨

母は子どもの養育や面会交流、扶養などを通じて父とされる者と長期的に関わる立場にあるため、固有の利益を有すると考えられ、母にも否認権を認めることが適当であると述べました。

また、DV事案や無戸籍問題では生活が安定するまでに時間を要するため、母の否認権の行使期間についても一定の余裕を設ける必要があるとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 母の否認権を支持
  • 無戸籍問題への配慮を重視
  • 行使期間の柔軟な設定を支持

窪田充見委員

所属・肩書

神戸大学大学院法学研究科教授

発言要旨

母に固有の否認権を認めるかどうかについては、男女平等だけでは説明できず、母が子を出産し養育に深く関与するという法的利益から検討すべきと指摘しました。

その一方で、母に独立した権利を認める場合には、子どもの利益と母自身の利益が一致しない事案も想定されるため、単に男女平等を理由として制度設計を行うことには慎重であるべきとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 母の法的利益を重視
  • 制度趣旨の整理を重視
  • 慎重な制度設計を支持

水野紀子委員

所属・肩書

白鷗大学大学院法務研究科教授

発言要旨

日本では離婚時の親権決定が私的自治に大きく委ねられていることや、DNA鑑定が容易に行える現状、生殖補助医療に関する包括的な法制度が未整備であることなど、日本特有の事情を踏まえて制度設計を行う必要があると指摘しました。

また、出自を知る権利だけでなく、知らされない利益や親子関係の安定にも十分配慮すべきとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 子どもの利益を重視
  • 親子関係の安定を重視
  • 日本の制度事情を踏まえた検討を重視

垣内秀介幹事

所属・肩書

東京大学大学院法学政治学研究科教授

発言要旨

母の固有の否認権を認めるかどうかについては、比較法上さまざまな制度が存在するとした上で、日本法全体との整合性を踏まえて検討する必要があると指摘しました。

また、親権を持たない母については、固有の否認権を認める以外にも、特別代理人選任の申立権などによって関与を認める方法も考えられると述べ、制度設計の選択肢を整理する必要があるとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 制度全体との整合性を重視
  • 特別代理人制度の活用を提案
  • 慎重な制度設計を支持

中田裕康委員

所属・肩書

早稲田大学大学院法務研究科教授

発言要旨

親権を有しない母の関与については、固有の否認権を認める以外にも、第三者訴訟担当や特別代理人制度など複数の制度構成を検討する余地があると指摘しました。

また、母や子が死亡した場合に否認権をどのように取り扱うかについても、制度設計上整理が必要な論点であると述べました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 制度構成の整理を重視
  • 手続面の整備を重視
  • 慎重な制度設計を支持

久保野恵美子幹事

所属・肩書

東北大学大学院法学研究科教授

発言要旨

母は子どもの利益に深く関与する立場であるものの、その利益は最終的には子どもの利益として整理できるのではないかと指摘しました。

母自身の利益を根拠に独立した否認権を認めると、子どもに不利益となる場合でも権利行使が可能となるおそれがあるため、母の関与は子の権利行使を支える制度で担保すべきとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 子どもの利益を最優先
  • 母の関与は子の権利行使で担保すべきとの立場
  • 慎重な制度設計を支持

髙橋宏志委員

所属・肩書

東京大学名誉教授

発言要旨

生殖補助医療による親子関係については、父となる者が同意した上で実施されたケースであれば、後にDNA鑑定を理由として父子関係を否定することは認めるべきではないと指摘しました。

また、親子法制の見直しと並行して、生殖補助医療に関する制度整備も進める必要があるとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 生殖補助医療と親子法制の整合性を重視
  • 同意に基づく父子関係の安定を重視
  • 制度全体の法整備を支持

sourcesから追記した発言

運営の評価ラベルは付けません。

大村敦志部会長

所属・肩書

学習院大学法科大学院教授

発言要旨

ありがとうございます。どの段階で訴訟が提起されるか,それは,権利の行使期間の問題とも関わるのかもしれませんけれども,それによって事情は違ってくるのではないかという,御指摘を頂いたと理解をいたしました。そのほかにも御発言あるかと思いますが,お約束をしました1時間になっております。

(PDF p.15)

髙橋良委員

所属・肩書

弁護士(神奈川県弁護士会所属)

発言要旨

すみません,いろいろ議論が進んでいるところで,大した意見ではないんですけれども,子どもが父を選ぶ人格的利益というものを想定して,いや,父親も人格的利益があるということで子どもの否認権を否定してしまうと,子どもの人格的利益の部分が結果としてゼロになってしまうような気がするんですね。父親の方は,子どもを育てるか否認するか選択する機会があったわけですけれども,子どもの側には選択する機会が全くないということになってしまうのではないかと思います。

(PDF p.47)

第9回の特徴

第9回では、嫡出否認制度の具体的な制度設計に踏み込み、特に「誰が嫡出否認を求めることができるのか」という否認権者の範囲について集中的な議論が行われました。子どもの利益を最優先としつつ、母の法的立場や親権との関係、父子関係の安定性との調和について、多角的な検討が進められました。

また、生殖補助医療との関係やDNA鑑定の普及など、新たな社会状況も踏まえた議論が行われ、従来の嫡出否認制度を現代の家族関係に適合させるための課題が幅広く整理されたことも、第9回会議の特徴となりました。

特に母の固有の否認権をめぐっては、「男女平等の観点から母にも独立した権利を認めるべき」との考え方と、「母自身の利益で訴えを提起できる制度となれば、子どもの利益や築かれた父子関係を損なう可能性がある」との慎重論が対立し、第9回を象徴する論点の一つとなりました。

一次資料

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