法制審議会 民法(親子法制)部会 第11回(令和2年10月27日)

会議日

目次

開催概要

  • 開催日:令和2年10月27日
  • 議題
  • 嫡出否認制度の見直し(3)―その他の見直し―(二読)(続き)
  • 嫡出推定制度の見直しに関する各論点の補充的検討
  • 部会長:大村敦志(学習院大学法科大学院教授)
  • 開催形式:会場参加とWeb参加を併用して開催

第11回のポイント

第11回会議では、前回から継続審議となっていた嫡出否認制度の見直しについて議論が行われました。特に、再婚後の夫の子と推定された子について前夫が否認権を行使できる要件や、子自身による嫡出否認権を新たに認めるべきかが中心的な論点となりました。

再婚後の夫との間で安定した親子関係が形成されている場合に、前夫による否認をどのように制限するかについては、「生物学上の父子関係」を要件とする案と、「子の福祉」を基準とする案の双方について議論が交わされました。また、子自身の否認権については、人格的利益や出自との関係、法的親子関係の安定との調和など、多面的な観点から検討が進められました。

主な論点

  • 前夫が再婚後の夫の子との推定を否認できる要件
  • 生物学上の父子関係を原告適格とすることの是非
  • 「子の福祉」を基準とした否認権制限
  • 子自身による嫡出否認権の創設
  • 子の人格的利益と出自を知る利益
  • 社会的親子関係の保護
  • 否認権行使要件と法的親子関係の安定

主な委員の発言

発言見出しは人物ページへリンクしています。要旨は短い整理です。全文は一次資料(議事録PDF)を参照してください。

この回の発言者(人物)

幡野弘樹幹事

所属・肩書

慶應義塾大学大学院法務研究科教授

発言要旨

前夫に生物学上の父子関係を要件として原告適格を認める案について、DNA鑑定の実施により再婚後の夫との親子関係に関する不要な情報まで明らかになるおそれがあると指摘しました。

また、この類型は通常の嫡出否認訴訟とは性質が異なり、前夫の嫡出推定を回復するための特別な制度として整理した方が制度的に分かりやすいのではないかとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 生物学上の父子関係要件には慎重
  • DNA鑑定による弊害を懸念
  • 制度類型の整理を重視

窪田充見委員

所属・肩書

神戸大学大学院法学研究科教授

発言要旨

原告適格の段階で生物学上の父子関係を判断することは、実質的には本案審理に近い性格を持つことになり、理論上も実務上も整理が難しいと指摘しました。

また、生物学上の親子関係だけを重視する制度になると、一般的に血縁関係を法的親子関係より優先する考え方につながりかねないとの懸念を示しました。さらに、子自身の否認権については、社会的親子関係は対抗利益として考慮すべきものであり、否認権を認める要件とは区別して検討すべきとの考えを述べました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 血縁主義には慎重
  • 社会的親子関係の保護を重視
  • 制度趣旨の整理を重視

垣内秀介幹事

所属・肩書

東京大学大学院法学政治学研究科教授

発言要旨

前夫に原告適格を限定する案については、不要な否認訴訟を抑制するという制度的意義があると評価しました。

一方で、子自身の否認権については、代理人による権利行使だけでは十分に保護されない人格的利益が存在する場合には、成年後の本人による否認権行使を認める余地があると述べました。また、父子関係の安定という利益との調整を図るため、社会的親子関係などを考慮要素とする制度設計が望ましいとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 原告適格の限定に理解
  • 子の人格的利益を重視
  • 法的安定性との調和を重視

棚村政行委員

所属・肩書

早稲田大学教授

発言要旨

前夫の原告適格を生物学上の父子関係によって限定する案は明確性がある一方で、血縁主義を強める側面があると指摘しました。

また、「子の福祉」を要件とする案は柔軟な判断が可能である反面、判断基準が抽象的になりやすいことから、それぞれに長所と短所があるとして、中間試案では両案を併記して広く意見を求めることが適当との考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 両案併記を支持
  • 血縁主義には慎重
  • 中間試案での幅広い意見聴取を重視

磯谷文明委員

所属・肩書

弁護士(東京弁護士会所属)

発言要旨

子自身による嫡出否認権については、「出自を知る権利」を直接の根拠とすることには違和感があると述べました。

その一方で、法律上の父子関係があることで社会的にも血縁関係があるものと受け止められる現状を踏まえると、血縁関係がないことが判明しているにもかかわらず法的親子関係に拘束され続けることへの人格的利益には十分配慮すべきであり、その利益こそが子の否認権を認める根拠になるとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 人格的利益を重視
  • 出自を知る権利とは区別して整理
  • 子自身の否認権を支持

大石眞委員

所属・肩書

京都大学名誉教授

発言要旨

「社会的親子関係」という概念については、それ自体を民法上の新たな概念として導入する必要があるわけではなく、制度設計を検討する際の考慮要素として位置付ければ足りるのではないかと指摘しました。

概念そのものを法制度へ導入することと、その考え方を踏まえて具体的要件を定めることは区別して考えるべきとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 社会的親子関係の概念導入には慎重
  • 要件設計との整理を重視

木村敦子幹事

所属・肩書

東京大学大学院法学政治学研究科准教授

発言要旨

ドイツ法では、子の否認権の議論において「出自を知る権利」が重視されてきた一方、その後は法的父子関係を否定する制度と出自解明制度は別制度として整理されていることを紹介しました。

もっとも、生物学上の親子関係と一致しない法的父子関係を否定する人格的利益は現在も否認制度の根拠として位置付けられており、日本法でも参考となる考え方であることを説明しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 比較法的観点から説明
  • 人格的利益を重視
  • ドイツ法の整理を紹介

髙橋宏志委員

所属・肩書

東京大学名誉教授

発言要旨

子自身の否認権は人格権として認めるべきであり、その制約は父親側の人格的利益との調整によって行うべきではないかと述べました。

父親が長年子を養育してきた利益を保護すべき場面はあるものの、子どもの側について個別事例を細かく法律上列挙するよりも、父親側の保護利益を要件として整理する方が適切ではないかとの考えを示しました。

編纂メモ(運営の評価ラベルではない)

  • 子の人格権を重視
  • 父親側利益との利益衡量を重視
  • 要件整理の工夫を提案

sourcesから追記した発言

運営の評価ラベルは付けません。

髙橋良委員

所属・肩書

弁護士(神奈川県弁護士会所属)

発言要旨

先ほど垣内幹事の方から人格権,否認権を人格権と捉えて否認訴訟のそれぞれの当事者に人格権を考えるというお話がありまして,子どもの否認権を人格権と捉えた場合,成年になった場合,権利行使すると父親との関係でどうかというところで議論になっているんだと思うんですけれども,私の考え方では,まず子ども自身に否認する人格権があって,ただそれを制限する要素として父親の人格権が対立利益としてあるのではないかと思います。そうだとすると,法律の枠組みとして,父親の人格権を侵害するときは否認できないというような発想で組み立てたらどうかなと思います。

(PDF p.15)

大森啓子幹事

所属・肩書

弁護士(第二東京弁護士会所属)

発言要旨

ありがとうございます。否認権の当事者,父子関係の当事者は父と子であります。そのため,当事者の一方である父に一定期間の否認権を認める以上は,もう一人の当事者である子にもきちんと否認権を認めようというのがこの議論の前提になっていると理解しております。

(PDF p.17)

水野紀子委員

所属・肩書

白鷗大学教授

発言要旨

先ほど磯谷委員が人格権という観点からいわれたご意見ですが,やはり日本の社会では周囲の人々が血縁主義的に思っているので,そういう周囲の思惑を受け入れる形で,本人が血縁と違うことについてつらく思うだろうと,注意深くは言っておられたと思うのですけれども,結局それは結論的にはかなり血縁主義的になるだろうと思います。それから,線引きの仕方として,離婚の裁量棄却のような形ではどうだろうかという御意見もありましたけれども,裁判所がそういう巨大な裁量権を持つという形で,はたして運営できるのか,疑問に思います。

(PDF p.20)

山本恒雄委員

所属・肩書

社会福祉法人恩賜財団母子愛育会愛育研究所客員研究員

発言要旨

ありがとうございます。ちょっと今のことにも関係すると思うんですけれども,先ほど一番初めの頃にあった人格権か出自を知る権利かという辺りのことと絡むんですけれども,お父さんの方は子どもをこれから育てていくときに否認権があって,それを行使した,しないで子どもの養育の責任も生じていくわけですよね。

(PDF p.23)

手嶋あさみ委員

所属・肩書

最高裁判所事務総局家庭局長

発言要旨

ありがとうございます。先ほど来,非常に難しい問題だなと思いながら伺っておりました。この手続を仮に設けるとすると,裁判所としても非常に重い判断を担うことになるなという思いを持っておりまして,かつ,今までの御議論でも感じるところでもあるのですけれども,どういう場合を想定しているのか,どういう場合にはその否認権行使を認めてよいのかということ自体について,多分それぞれの委員,幹事の方々が想定しておられるところがやはり相当に幅があるのではないかとも思っておりまして,そこが裁判所としては非常に厳しいところだなと逆に思っております。

(PDF p.24)

久保野恵美子幹事

所属・肩書

東北大学大学院法学研究科教授

発言要旨

ありがとうございます。窪田幹事が御指摘なさった一旦,出生後に否認権が行使されずにそこで一定の安定した親子関係を組み立てたと認めるという制度を前提に,今その後の段階における否認権を考えているということを考えますと,一旦安定した確立した親子関係を認めるのはなぜかということとの関係で否認の要件を考えなくてはいけないという観点が重要だと考えています。

(PDF p.27)

第11回の特徴

第11回では、嫡出否認制度の細部に関する制度設計が本格的に議論されました。特に、前夫による否認権の範囲や、子自身による否認権を新設する場合の法的根拠・行使要件について、多角的な観点から検討が行われました。

議論では、生物学上の親子関係だけで制度を構成することへの慎重論が相次ぐ一方、子どもの人格的利益や法的親子関係の安定、社会的親子関係の保護との調和を図る必要性について広く認識が共有されました。また、ドイツ法など比較法上の議論も紹介され、今後の中間試案作成に向けた理論整理が進められたことが特徴となりました。

一次資料

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