会議日
開催概要
- 開催日:令和元年12月24日
- 議題
- 民法第772条の嫡出推定規定の見直しに関する更なる検討
- 嫡出推定制度に関するその他の見直し
- 部会長:大村敦志(学習院大学法科大学院教授)
第5回のポイント
第5回会議では、前回まで議論されてきた嫡出推定制度の見直しについて、制度設計上の課題をさらに掘り下げる議論が行われました。
特に焦点となったのは、離婚後300日以内に出生し、母が再婚している場合の子について、再婚後の夫への嫡出推定が否認された場合の法的効果です。再婚の夫との親子関係が否定されたとき、自動的に前夫の子と推定すべきか、それとも推定される父が存在しない状態とすべきかについて、多角的な議論が交わされました。
また、前夫に再婚後の嫡出推定を否認する権利を認めるべきかについても検討されました。前夫は一般的な生物学上の父とは異なる法的地位にあるとの考え方が示される一方、子の利益や再婚家庭の安定を優先すべきとの意見もあり、制度設計の難しさが改めて浮き彫りとなりました。
さらに、嫡出否認訴訟を複数回行うことによる当事者の負担や、父子関係を一度の手続で確定させる「紛争の一回的解決」の必要性についても活発な議論が行われました。
主な論点
- 再婚後の夫への嫡出推定が否認された場合の法的効果
- 前夫の嫡出推定は復活するのか
- 前夫に嫡出否認権を認めるべきか
- 生物学上の父との関係をどう位置付けるか
- 父子関係紛争の一回的解決の必要性
- 子の利益と家族関係の安定との調整
主な委員の発言
発言見出しは人物ページへリンクしています。要旨は短い整理です。全文は一次資料(議事録PDF)を参照してください。
この回の発言者(人物)
棚村政行委員
所属・肩書
早稲田大学教授
発言要旨
再婚後の夫への嫡出推定が否認された場合でも、前夫との嫡出推定を完全に消滅させるのではなく、優先順位が後退しているだけと考える余地があると指摘しました。
父親が存在しない状態を生じさせないことが重要であり、婚姻を基礎とする父性推定という制度の基本構造は維持すべきであると述べました。また、比較法上も様々な制度設計が存在することを紹介し、子どもの利益や紛争の長期化防止という観点から制度全体を説明すべきとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 婚姻を基礎とする父性推定を重視
- 前夫の嫡出推定を維持する方向に理解
- 子の法的地位の安定を重視
- 比較法を踏まえた制度設計を支持
窪田充見委員
所属・肩書
神戸大学大学院法学研究科教授
発言要旨
再婚後の嫡出推定が否認された後、前夫との親子関係について子が否認権を行使できなくなる理由は、より丁寧に整理する必要があると指摘しました。
また、再婚によって従前の嫡出推定が完全に消滅すると考えることには疑問を呈し、再婚という新たな事情だけで既存の嫡出推定が失われる理由は慎重に検討すべきと述べました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 子の否認権との整合性を重視
- 前夫の推定を維持する考え方に理解
- 制度全体の論理構成を重視
中田裕康委員
所属・肩書
早稲田大学大学院法務研究科教授
発言要旨
再婚後の嫡出推定が否認された結果、前夫の嫡出推定が復活するのであれば、その際の否認権や行使期間についても法律上明確に規定すべきと指摘しました。
制度改正によって複雑な法律関係が生じる以上、実務上混乱が生じないよう規律を整備する必要があるとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 制度の明確化を重視
- 否認権や期間の整理を支持
- 実務上の分かりやすさを重視
髙橋良委員
所属・肩書
弁護士(神奈川県弁護士会所属)
発言要旨
再婚後の夫でも前夫でもなく第三者が生物学上の父である場合には、制度設計によっては前夫が意図せず父と推定され、その後に否認できなくなる可能性があることを指摘しました。
制度の運用によって当事者が予期しない不利益を受けることがないよう、様々な事例を想定した制度設計が必要であると述べました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 実務上の具体的事例を重視
- 想定外の不利益が生じない制度設計を支持
垣内秀介幹事
所属・肩書
東京大学大学院法学政治学研究科教授
発言要旨
父子関係紛争を一度の手続で解決することには一定の意義がある一方、そのために当事者の権利を過度に制限すべきではないと指摘しました。
また、前夫に否認権を認めるのであれば、生物学上の父子関係が存在することを要件とする考え方もあり得ると述べ、制度全体との整合性を重視した議論を行いました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 一回的解決の考え方に理解
- 権利制限には慎重
- 制度全体の整合性を重視
幡野弘樹幹事
所属・肩書
立教大学教授
発言要旨
再婚後の夫への嫡出推定が否認された場合に、自動的に前夫への嫡出推定を復活させる必要があるのか疑問を呈しました。
前夫への推定を当然に認めると、さらに前夫についても嫡出否認手続を行う必要が生じ、当事者の負担が大きくなると指摘しました。
一方で、前夫自身が父となる意思を持って再婚後の嫡出推定を争う場合には、例外的に前夫を父とする制度設計も考えられると述べ、より簡潔で分かりやすい制度を模索すべきとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 前夫への自動的な嫡出推定には慎重
- 当事者負担の軽減を重視
- シンプルな制度設計を支持
大森啓子幹事
所属・肩書
弁護士(第二東京弁護士会所属)
発言要旨
今回議論されている制度は、婚姻後200日以内や離婚後300日以内の嫡出推定を前提とした制度設計であることを確認した上で、まず制度全体の整理が必要であると指摘しました。
また、前夫だからという理由だけで再婚家庭の父子関係を覆す権限を認めることには慎重であるべきと述べました。再婚後の夫が子を実子として養育している場合には、その家族関係や子どもの利益を尊重する必要があり、前夫を特別扱いする理由は十分ではないとの考えを示しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 前夫への否認権付与には慎重
- 子どもの利益と再婚家庭の安定を重視
- 制度全体の整理を優先すべきと主張
井上久美枝委員
所属・肩書
日本労働組合総連合会総合政策推進局総合局長
発言要旨
資料中で示されている「前夫の子である蓋然性」の考え方について、第3回会議での議論との整合性を確認しました。
また、前夫に否認権を認める場合に「子を養育する意思」をどのように確認するのかについて質問し、制度運用上の基準を明確にする必要があると指摘しました。
編纂メモ(運営の評価ラベルではない)
- 制度説明の分かりやすさを重視
- 運用基準の明確化を重視
sourcesから追記した発言
運営の評価ラベルは付けません。
大村敦志部会長
所属・肩書
学習院大学法科大学院教授
発言要旨
ありがとうございました。前回は,先ほどもご説明がありましたけれども,再婚の後200日までに生まれた子どもについても,再婚の夫の子とするという規律を前提にして,前婚の嫡出推定が外れるという提案されておりましたが,それに伴う問題が幾つかあるのではないかとの御指摘を頂いていたところでございます。
(PDF p.4)
久保野恵美子幹事
所属・肩書
東北大学大学院法学研究科教授
発言要旨
今の御意見に賛成で,言い方を変えるだけではありますけれども,推定の及ばない子に関する判例法理によって,今,実現されようとしていることというものを確保した方がいいのかという問題の立て方も先ほど示されましたけれども,その「確保した方がいいもの」が,新しい嫡出否認制度ができたときに,どのぐらい残るのかというのが,今のところ,私もまだ,余り見えないような気がしております。といいますのは,ちょっと遠回りな言い方になりますが,先ほどの論点で,私は,一方で婚姻制度というものに引き付けた嫡出推定の捉え方に基づいて発言をしましたけれども,そちらを重視して,嫡出推定を考えた方がいいとまでは,思っているわけではありません。
(PDF p.26)
水野紀子委員
所属・肩書
白鷗大学教授
発言要旨
窪田委員がおっしゃるように,身分行為の婚姻というものと,それと財産的なものは違うという感覚は,私も共有しており,婚姻はとても重いものだと思います。ただ,現実の日本の戸籍の運営を考えますと,その重さにふさわしい手続きになっておりません。今問題になっていますのは,婚姻や養子縁組の危うさです。
(PDF p.34)
第5回の特徴
第5回では、これまで議論されてきた嫡出推定制度の見直しについて、具体的な制度設計や法的構成をめぐる議論が本格化しました。
特に、再婚後の嫡出推定が否認された場合の法的効果や、前夫に否認権を認めるべきかという点では、「子の利益」「家族関係の安定」「生物学上の親子関係」「制度の分かりやすさ」という複数の価値が交錯し、委員・幹事それぞれが異なる視点から意見を述べています。
また、「紛争の一回的解決」という考え方についても一定の理解は示されたものの、それを絶対的な価値とするのではなく、当事者の権利や子どもの利益とのバランスを踏まえて制度を設計すべきとの認識がおおむね共有されました。